働き蜂の自我

ななななんと!
いなづまこと様が私の描いたアインストクスハにSSを付けてくださりました!

まさか自分の描いた拙絵にSSが付く日が来ようとは夢にも思っておりませんでした。
いなづ様、本当にありがとうございました!

SSの掲載許可を頂いたため、早速当ブログで公開させていただきますね。
それではいなづまこと様のSSをどうぞ!


 

『働き蜂の自我』

 

「………っ!」

どこかから、語りかけてくる声が聞こえる…
それが『私』に向けてなのか、他に向けてなのかはわからない。
なぜなら、この周囲一帯にいるのは全て『私』であり、識別など出来はしないから…

『私』は『私』…
個であり全であり、一にして総…
ここにいる全ての『私』が全て同じ考えのもとに動き、進み、目的を果たさんとしている…

『私』の目的は、『私』を脅かす輩の排除…
そのため『私』は『私』の分身である『コレ』に乗って、目の前の敵を排除する…

全ては、世界を完全なる静寂で満たすために…

 

三日ほど前、クロガネから突然クスハがグルンガスト弐式に乗って飛び出していった時、ブリットのみならずクロガネの乗組員全体に嫌な予感が走っていた。
なぜなら、これはクスハと同様に突然行方不明になり、つい先日変わり果てた姿で現れたエクセレンと全く同じパターンだったからだ。

そして、その予感はこれ以上ない正確さで当ってしまった。
クロガネの周囲に転移してきた集団…アインストシリーズの中に、行方をくらましたグルンガスト弐式が紛れ込んでいたのだ。
しかも、その姿はエクセレンが乗ってきたヴァイスリッター同様、異形の変化を遂げていた。
機体の関節部は蔦のような植物状の繊維質によって構成され、腹部中央にはアインストシリーズのような赤いコアが設置されている。
装甲の所々は有機的なものを思わせる意匠に変化し、ちょっと見た限りではアインストシリーズの『アーマー』(アインストゲミュート)を連想させるような機体になっている。

そしてその姿を確認するや、ブリットは周りの静止も聞かず飛び出していってしまった。もちろん、周りのアインストシリーズからは容赦ない攻撃が加えられるが虎王機に乗ったブリットにはあたる気配すら感じられない。
「クスハッ!!」
ブリットは先ほどから微動だにしないグルンガスト弐式に真っ直ぐ突っ込んでいき中にいるであろうクスハに声をかけていった。

ギギ……

果たしてその声に反応したのか、グルンガスト弐式の顔が虎王機の方へと向いていく。
「聞こえているのか、クスハ!」
焦燥に駆られていたブリットの顔に歓喜の笑みが浮かぶ。
だが、勿論それは早計だった。
グルンガスト弐式のコアが無気味に赤く光ったかと思うと、弐式の拳が虎王機にスッと向けられた。それは明らかに虎王機を狙ったものである。
考えてみれば当たり前だ。先ほど立ちはだかったエクセレンもこちらに対して本気で攻撃を仕掛けてきたのだから。
だが、喜びで浮かれたブリットはそのことには気づいていない。

「ブリット!!」
「っ?!」

回線に強引に割り込んでくるかのようにブリットの上官のキョウスケの声が割ってはいる。それでやっと我に返ったブリットの目の前に見えたのは、自分目掛けて突っ込んでくる弐式のブーストナックルだった。
「うわっ!」
すんでのところでブリットはナックルをかわしたが、安心する暇もなく虎王機目掛けて弐式が突っ込んできた。
コアを爛々と輝かせて向ってくる弐式には、明らかな殺意が感じられる。
「や、やめろクスハ!!」
ブリットはなんとかしてクスハを止めようと、弐式の中にいるはずのクスハに対して必死に呼びかけていた。
だが、中からは何の反応もなく虎王機に対しての攻撃も止む気配は一向になかった。

kusuha1_2.jpg

なんだろう…
目の前の敵は『私』を倒そうともしないでひたすら『私』に近づこうとしている…
何を考えているの…?『私』にはわからない…
わからないけど…、でも『私』の邪魔をするものは…
するものは…排除しなければならない…
しなければ…、しなけれ…

グルンガスト弐式の中にいるクスハは、自分に攻撃をかけてくるでもない虎王機に少なからず混乱をきたしていた。
その混乱は周囲のアインストシリーズにも伝わり、ブリットのみならず他の皆に対する攻撃にも躊躇が出始めてきている。
本来、大元のアインストの統一意思によって動くアインストシリーズに躊躇や混乱といったことはありえない。
それはアインストに取り込まれたクスハも同様のはずだった。
実際、アインストの意思に取り込まれて彼らのもとに赴いたクスハはその意思も肉体もアインストのものへと変貌を遂げており、胸からはみ出している赤いコアは常に無気味に光りながら大元のアインストの意思をクスハに送り届けていた。
今のクスハは自立した思考というものは持たず、コアから送られてくるアインストの意思を忠実に実行する傀儡であり、それが当たり前という認識をもっていた。
だが、アインスト化して日数が浅いからだろうか。それとも、心のどこかが抵抗を続けているからだろうか、クスハの顔には僅かだが現状に対する躊躇や苦痛といった表情が浮かんでいた。
それは虎王機に対する攻撃の不正確さ、または全体的な動きの鈍さとなって現れていた。

「やめるんだクスハーッ!」

(また…あの声が……)
開きっぱなしの通信回線からブリットの声が響いてくる。その声はいちいちクスハの心に響き、不快さと共に軽い頭痛をクスハにもたらしてきた。
アインストとなったクスハには、もちろんブリットという人間に対する記憶はない。だが、どこかに残っていると思われる『クスハ・ミズハ』としての人格が、ブリットの声に微妙な反応を起こしていた。
「クスハーッ!!」
(うるさい…、私はクスハじゃない……
私はアインスト。この世界を静寂に包み、新しい宇宙を作り出すのが私の…私の……!)

ズキン!!

「ウッ……。ア、アタマ  ガァ……」
まるで割れそうな、それほどの激しい痛みがクスハの頭の中で暴れた。そのあまりの痛さにクスハの視界は赤く歪み、弐式のコントロールすらままならなくなっていた。
動きの鈍くなった弐式の目の前に虎王機が迫って来る。だが、今のクスハには虎王機を迎え撃つ余裕すら無くしていた。

「弐式の動きが止まった?!」
一体何が起こったのか、今まで激しく攻撃をしていた弐式がブリットの目の前で突然動きを止めてしまった。
普通ならここでなんらかの罠を疑うところではあるが、ブリットは今こそ好機と一気に弐式へと近づいていった。
キョウスケが何事か喚いている通信が入ってきているが、今のブリットにそんなものが聞こえるわけがない。
「クスハ!」
あれほど近づくのが困難だった弐式にあっさりと接触でき、ブリットは直接通信でクスハへと呼びかけた。向こうのモニターが入っていないので中は確認できないが、ブリットは中にクスハがいるという確信があった。
「クスハ!ハッチを開けてくれ!クスハ、クスハ!クスハ!!」
中からは何の反応もない。だがブリットは何度も何度も、クスハの名前を連呼し続けた。

『クスハ、クスハ!クスハ!!』
弐式のコックピットに大音量でブリットの声がこだましている。別にボリュームを最大にしているわけではない。
ブリットが馬鹿でかい声で叫び続けているからだ。
「アゥ、ア、アアァ……」
その声が響くたびに、クスハの頭に割れそうな痛みが走ってくる。その痛みに、クスハはコックピットの中で目を見開き、頭を抱えながら蹲っていた。
(こ、この声……
なんでこんなにも『私』を苦しめる……。なんでこんなにも『私』の心に響く……)
クスハの心の中にあるアインストとしての『私』は勿論ブリットのことは知らない。ただの強念の者の一人という認識でしかない。
だが、クスハの心の中に残っている『クスハ』の人格が、ブリットの声にただならぬ反応を放っていた。
アインストという強大な念に取り込まれ消えかかっていたクスハ本来の人格が、ブリットの声に触発されて再び表に出掛かりつつあった。

カツカツ カツカツ

「………ァ?!」
スピーカーに何かを叩く音が入ってきている。一体何事かと痛む頭を抑えて顔を上げたクスハが見たものは…
『開けてくれ!お願いだクスハ!!』
モニター一杯に入ってくる、弐式のコックピットハッチをガンガンたたくブリットの姿だった。
「……ア、アァ……!!」
その姿を目にした時、意思の光を失っていたクスハの赤い瞳にぽぅっと輝きが戻ってきた。
『クスハ、クスハァ!!』
いままで完全に忘れていた、いや忘れさせられていた相方の存在。
それがクスハの心に鮮やかに蘇ってくる。
「ブ、ブリット……クン……」
『クスハ?!いるんだなクスハ!!』
「ブリット、クン…。ブリットクン……!」
自分を助けに来てくれた。その思いでに胸が詰ったクスハが思わずハッチを開けようとした、その時

ボゥッ

「ウッ?!」
クスハの胸から飛び出ているコアが、突然爛々と輝き始めた。
いや、それだけではない。コックピット内部のところどころにある赤いクリスタル、中からは見えないが弐式の外装にもあるクリスタルも同様に光り輝いている。
輝きは瞬く間に熱となり、人の心を取り戻しかけたクスハの体を容赦なく炙り始めた。
「アッ、アッ!アアァッ!!」
突如体を襲った熱い痛みに、クスハは胸を抑えて苦しみだした。
その熱に伴って、それまでも聞こえてはいたアインストの意思が今までにない圧倒的な圧力でクスハの心に介在してきた。それは小さな一人の人間の心など、すぐさまにでも吹き飛ばしてしまうほどの強さだった。
「ブ、ブリット……クン……、イ、イヤァ!イヤアアァァァアァッ!!」
せっかく取り戻した自分の心、ブリットの記憶、それらが全て再びアインストの意思に塗りつぶされていってしまう。
クスハは必死に自分を見失うまいと頑張った。が、無駄な努力だった。
確かに心こそ元に戻りかけはしたものの、その肉体はアインストのものに再構成されているのだ。アインストの意思を拒絶することなど、出来るはずがなかった。
「イヤァ…イヤ……ァ……」
コックピット内で響いていたクスハの声は次第に小さくなり、それに伴って体を襲っていた熱い痛みも消えていった。
そして、消えたのは痛みだけではなく、クスハの人格もまた心の奥底に消えていってしまった。
「………」
クスハが顔を上げた時、そこには『クスハ』は既になく一個の『私(アインスト)』にとって変わられていた。

kusuha1_1.jpg

「?!」
ブリットがガンガンとハッチを叩いていた時、不意に弐式がその場を離れ始めた。
弐式が推進剤を使っていないため吹き飛ばされることはなかったが、ブリットの目の前で弐式は見る見るうちに遠ざかっていく。
「ま、待ってくれクスハ!!」
ブリットは慌てて虎王機に戻ったが、追いかけようとした時にはすでに弐式は他のアインストと一緒に転移してしまっていた。
「クスハ……、ち、畜生――っ!!」
あと少しで助けられたのに、あとちょっとで助けられたのに。
ブリットは悔しさのあまり、虎王機の中で思い切り泣き叫んだ。
宇宙空間の外に音は届かないはずなのに、外にいたほかのメンバーにはまるで虎王機が吠えているように見えた。

一方、アインスト空間に戻ったクスハも言いようのない心のもやもやにやきもきしていた。
自分が知らないはずの人間。心を乱された人間。
それにより、一瞬『自分』をなくしてしまうほどの心の衝撃を受けてしまうほどの人間。
それにより、『自分』が改めて器に意思を注入しなければならなかったほどの人間。
(ブリット……)
ブリットと名乗った人間は、他の『自分』には目もくれず、ただただこの『私』目掛けて迫ってきた。
本来なら捨て置いてもいい有象無象の人間の一人。アインスト本来の意思にはブリットは所詮そんな対象でしかない。
だが、今だ完全なアインストにはなりきれていないクスハの心に、ブリットという存在はすでに消え去ることの出来ない存在として認識されてしまっている。
それにより、本来あってはならないクスハのアインストとしての『独立した自我』が芽生え、アインスト本来の自我とは違った意思がクスハの心の中に息づいていた。
(ブリット……あなたは『私』の……何?)
アインスト本体の意思ではない、『アインスト・クスハ』としての意思で、クスハはブリットのことを弐式の中でずっと自問し続けていた。

 

 


むう、感涙であります!

クスハのギャップ、ブリットの直情性、アインストの特性を見事に描写したSSだと思います。
特にクスハが自我を取り戻しそうで、逆に完全に自我を塗りつぶされるという展開は私は大好きです。
そしてアインストが疑問を抱いたまま撤退、完結、という流れがまたいい感じです。

せっかくだからとSSに画像を付けようと思ったのですが、前述のアインストクスハだけでは物足りないので、泣きクリスタルなし&影少な目のアインストクスハを新しく作ってみました。
自我を塗りつぶされる前のクスハ→完全なアインストとなったクスハ
のように思っていただければ幸いです。

いなづ様、アインストクスハSS、本当にありがとうございました!

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